やくたたずの恋
 この前は、恭平にも胸を触られたはずだ。あの時だって嫌で嫌で仕方なかったが、ここまで絶望的な気持ちにはならなかった。その上、恭平にはキスまでされたと言うのに。
 同じ「おっさん」でありがながら、されていることも一緒なのに、どうしてこうも感覚が違うのか。
 助けて! 恭平さん、助けてよ!
 心の中とはいえ、こんな時に恭平の名前を叫んだことに驚きながらも、雛子は湯川の手から逃れようと、体を捻った。
 ダメだ。恭平さんになんか、助けを求められないよ。
 ……っていうか、誰か助けてくれるはずもないんだから!
 ここは、自分で解決するしかないんだ。これも、恭平さんと結婚するため!
 雛子は力一杯腕を動かし、湯川の手を振り払う。そして胸元に置かれた湯川の手をグイ、と捻り上げた。
「湯川様! これは、いけないことです!」
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