やくたたずの恋
 突然のことに、湯川は息を止めた。つぶれた饅頭に似た顔が、無理矢理整えられて、元の形に戻ろうとしていた。
「こういうことは、公衆の面前ではしてはいけないんです! それに、湯川様には奥様がいらっしゃるんですから、奥様を大事にする意味でも、こういうことはしてはいけないんです!」
 ヒヨコが必死で、名古屋コーチンの気高いオーラを発する。その勢いに負け、湯川は恥ずかしそうに手を引っ込めた。
 先生に怒られ、廊下に立たされる小学生。そんな雰囲気の湯川へと、ほっとした雛子はゆっくりと微笑みを見せていった。
「私に触りたいのであれば、よろしかったら手を繋ぎませんか? その方が、ちゃんと触れ合えると思うんです!」
 若くて可愛い女の子に、「手を繋ごう」と言われる快感。湯川は顔を赤らめつつ、後ろに引っ込めていた手をそっと前に出した。
 それに雛子が手を合わせると、湯川の顔は更に赤みを濃くしていく。磨き立てのリンゴのように、つやつやとしたオヤジ顔になっていった。
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