やくたたずの恋
 やっと安心して、恭平は息を吐き出した。大きく動く彼の肩胛骨を見ながら、悦子がニヤニヤと口元を緩める。
「ねぇ、ヒヨコちゃん。あなたが湯川様の所へ行っている間、大変だったのよ。影山ちゃんたら、あなたが心配で心配で、落ち着きがなくってねぇ……」
「うるせぇ! 肥大乳女!」
 恭平はすっかり生気を取り戻し、いつも通りの怒鳴り声を上げている。それを聞いて悦子は、「はいはい」と肩を竦めた。
「じゃあ私はそろそろ、キョウコちゃんの迎えに行ってきますね」
 悦子は玄関の壁にあるキーストッカーから車の鍵を取り出し、そのまま外へと出て行った。
 ドアが閉まり、玄関に静かな空気が流れる。靴を履いたままで佇む雛子を見下ろし、恭平は口を開いた。
< 224 / 464 >

この作品をシェア

pagetop