やくたたずの恋
「……大丈夫だったのか?」
「何がですか?」
「湯川様は、うちの女たちにセクハラしまくるので有名だからな。変なことはされなかったか? お前のその貧乳を、わざわざ揉もうとは思わないだろうけどな」
「そんなこと、言う必要ないでしょう!」
 怒りと共に髪を逆立てて、雛子は頬を膨らませる。活きのいいフグ。そんな感じの彼女の顔を見て、恭平は口を閉じたままで笑う。
「まぁ……無事ならよかった」
 引き締まって直線的な、恭平の笑顔。それはギリシャの神々の彫刻に似て、力強いものだった。そして、彼が「シホ」と呟いた時の顔に、よく似ている。
 恭平さんは、こういう顔をいつもしてくれればいいのに……。
 その願いは届かないことを知りながら、雛子は靴を脱ぎ、部屋へと上がる。
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