やくたたずの恋
「それは、俺じゃない」
「え? でも、あれは恭平さんが……」
「だから、もうそれは、俺じゃないんだよ!」
その声は、悲しげな鳥の嘶きのようだった。渡り鳥として生きる定めの鳥が、心の奥に潜めた故郷へと思いを馳せ、鳴いているのだ。
デスクの奥にある窓は半分ほど開けられ、春特有のぬるい夜風が入ってきていた。なのに今、部屋じゅうが凍りついている。決して溶けることのない白い氷が、恭平と雛子の存在を覆っているのだ。
氷の世界の中で、恭平は優しげな表情をいつの間にかかなぐり捨ていた。その代わりに、何の感情も持たない、マネキンの表情を填めている。
怒らせてしまったのだろうか。大きく見開きつつも、何も見つめていない恭平の目に当てられ、雛子は咄嗟に「ごめんなさい!」と頭を下げた。
「え? でも、あれは恭平さんが……」
「だから、もうそれは、俺じゃないんだよ!」
その声は、悲しげな鳥の嘶きのようだった。渡り鳥として生きる定めの鳥が、心の奥に潜めた故郷へと思いを馳せ、鳴いているのだ。
デスクの奥にある窓は半分ほど開けられ、春特有のぬるい夜風が入ってきていた。なのに今、部屋じゅうが凍りついている。決して溶けることのない白い氷が、恭平と雛子の存在を覆っているのだ。
氷の世界の中で、恭平は優しげな表情をいつの間にかかなぐり捨ていた。その代わりに、何の感情も持たない、マネキンの表情を填めている。
怒らせてしまったのだろうか。大きく見開きつつも、何も見つめていない恭平の目に当てられ、雛子は咄嗟に「ごめんなさい!」と頭を下げた。