やくたたずの恋
 こんなに何もできない娘で、ごめんなさい、お父様、お母様。
 雛子は何かに祈るように、両手をぎゅっと握り締めた。そして、そんな自分との結婚を迫られている恭平にも、申し訳なさを溢れさせる。
「私の望む結婚が、恭平さんのご迷惑になることは分かっているんです。こんな何の取り柄もない私と、結婚する羽目になっている恭平さんの方が、本当は辛いんじゃないかな……って思いますし」
「俺と結婚するのは、嫌じゃないのか?」
 雛子が顔を上げると、恭平の黒い瞳が見えた。雛子をしっかりと捉え、照明の明かりも届かないほどに黒く沈んでいる。その色は、真実の色だ。何物にも染まるまい、と覚悟を持ち、雛子の本心が捧げられることを望んでいる。
 彼には、嘘をつけない。恭平の瞳を見つめながら、雛子は静かに口を開いた。
「正直に言うと、最初はおっさんなんかと結婚するのは嫌でしたけど……。でも今は、悪くないんじゃないかな、と思うようになりました」
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