やくたたずの恋

　雛子はふと、自分の胸元へと手を伸ばす。今日、そこを湯川に触られた時の感覚を思い出せば、全身を虫が這っていく。
「今日、湯川様にセクハラされて、体を触られた時は、すっごく嫌だったんです。いやらしいし、しつこいし、気持ち悪いし……。だけど、恭平さんに触られた時はそうじゃなかった。あの時はあの時で嫌だったんですけど、湯川様に触られるのとは全然違っていたと思うんです」
　その違いが何から来るのか、雛子には分からない。だが、恭平に対しては、湯川に抱いたような嫌悪感を持つことはなかった。
　その事実を伝えるように、雛子は真っ直ぐに恭平を見つめた。
「だからきっと、努力していけば、いつかは恭平さんを好きになれるような気がします」
　雛子の声が、窓から入った風に混じり、恭平の体へと吹きつけた。くるくるとワルツを踊る風に誘われて恭平は立ち上がり、雛子の前へと歩み寄った。