やくたたずの恋
 二人の感覚が一つになる。そう思えたのは、唇が触れた瞬間だった。熟れた苺を噛み締めて濡れる唇。じんわりと果汁が染み出せば、恭平は音を立てて味わい尽くす。その度、雛子の唇が赤く染まり、苺そのものへと変わっていく。
 これは何だろう? キスだということは分かる。だけどなぜ、彼はこんなことをしているのか。戸惑いから抵抗も忘れ、雛子は苺と化した自分の唇を、彼に捧げ続けていた。
 息苦しさから雛子が息を吐き出せば、恭平はその隙に口づけを奥へと進めていく。
 初心な雛子は、この行為が、蛇の遊びのようにも思えていた。長い舌を持つ蛇が二匹、べろべろと舌で握手をする。そんな感じに。だが、恭平に口の中を弄られ続けていくうちに、そんな絵本のような世界はぶっ飛んでしまった。
 これは、愛情表現だ。「好き」という気持ちを、相手に伝える以外の何物でもない。
 それに気づけば、一気に恥ずかしさが増していく。だけど、嫌な感じはしなかった。
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