やくたたずの恋
もっと奥へ。恭平が雛子の頭を押さえつけ、雛子の唇を食い尽くしていく。彼の短い髭が雛子の肌に触れて、ざり、と音を立てた時だった。
「あら、お邪魔だったかしら?」
それは、明るい女の声だった。春が来たことを告げる妖精のような囁きに、部屋に吹く風の向きが変わる。
恭平は咄嗟に唇を離す。彼の胸へと放り出された雛子は、ぼうっとした視線をドアへと向ける。そこには、一人の女が立っているのが見えた。
なぜここに人がいるのか。そんな疑問は、彼女を見れば消えてしまう。
美人。誰が見てもそう評価するだろう。咲き誇る薔薇を混ぜ込んだ、華やかな顔。だが、佇まいは恐ろしいほどに静かだった。柔らかな笑みを見せるその姿は、星のない夜空に浮かぶ、独りぼっちの月を思わせた。
その月はにっこりと微笑み、雛子と恭平を照らし出していく。
「恭平。あなたらしくないわね、ここでそんなことしてるなんて」
う、うわ! この人……ずっと見てたの!?
急に恥ずかしさが募り、雛子は女から顔を背ける。その耳に、恭平の呟きが聞こえてきた。
「……志帆」
「あら、お邪魔だったかしら?」
それは、明るい女の声だった。春が来たことを告げる妖精のような囁きに、部屋に吹く風の向きが変わる。
恭平は咄嗟に唇を離す。彼の胸へと放り出された雛子は、ぼうっとした視線をドアへと向ける。そこには、一人の女が立っているのが見えた。
なぜここに人がいるのか。そんな疑問は、彼女を見れば消えてしまう。
美人。誰が見てもそう評価するだろう。咲き誇る薔薇を混ぜ込んだ、華やかな顔。だが、佇まいは恐ろしいほどに静かだった。柔らかな笑みを見せるその姿は、星のない夜空に浮かぶ、独りぼっちの月を思わせた。
その月はにっこりと微笑み、雛子と恭平を照らし出していく。
「恭平。あなたらしくないわね、ここでそんなことしてるなんて」
う、うわ! この人……ずっと見てたの!?
急に恥ずかしさが募り、雛子は女から顔を背ける。その耳に、恭平の呟きが聞こえてきた。
「……志帆」