やくたたずの恋

　黒のニットに、黒のクロップドパンツ。喪服を纏ったような彼女を見ていれば、訳もなく怖くなる。ぶる、と雛子は体を震わせ、恭平に縋る手の力を強めた。彼から離れなくては、とは思うのだが、女が迫ってくるほどに、離れる気持ちが薄らいでいくのだ。
　女のニットの裾が、雛子の目の前で動きを止める。女は腰を屈め、雛子の視線に合わせた。
「可愛いお嬢さんね！　この子、ここで働いてるの？」
「……ああ」
　恭平の弱々しい返事に、女はわざとらしく「まぁ！」と声を上げた。
「珍しいじゃない！　これまでこんなタイプの子は、ここにはいなかったでしょう？」
　女は自分の顔を押しつけるように、雛子へと迫る。その薔薇色の表情に似た香りが、目の前に広がった。