やくたたずの恋
「あなた、おいくつ?」
「え、えっと……22歳です」
「若いわねぇ! 私もあなたと出会った頃は、こんな感じだったわよね。ねぇ、恭平?」
 恭平は返事をせずに、女へと警戒の目を向ける。そして雛子の腕を強く掴み続けていた。飛び出し禁止。そんなシグナルを、雛子に送りながら。
「……何の用だ、志帆」
 警報にも似た恭平の声を聞き、雛子はこの時、やっと気がついた。この女の人が「シホ」なのだ、と。恭平がこれまで呟いていた「シホ」という言葉は、この女性の名前だったのだ。
 志帆は肩を窄め、くすぐったさそうに笑う。その仕草には、ほのかに少女時代の名残が見えた。
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