やくたたずの恋
「私の依頼へのお返事がまだだったから、伺いに来たの」
「あの件については、断ったはずだ。俺は引き受けない」
「何を言ってるの? 私の願いを、あなたが拒否できる訳ないでしょう?」
 寒い夜空に浮かぶ、冴えた満月。そんな気高くも鋭い表情を湛え、志帆は雛子を見た。
「そうね……何なら、このお嬢ちゃんなんて、丁度いいんじゃないかしら」
「志帆! いい加減にしろ!」
 恭平は雛子を引っ張り、自分の背後へと移動させる。触られたくないおもちゃを隠す子供のような仕草に、雛子は思わす頬を赤らめた。自分が恭平に大切にされている、という実感。それが複雑な気持ちを生んでいた。
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