やくたたずの恋
 恥ずかしいような、嬉しいような。淡い桃色に染まる思いに、さっきのキスを重ね合わせれば、顔から火を噴かずにはいられない。その火は雛子の体を溶かし、液体にしてしまいそうだ。
 液状化する前に捕まえようと、雛子を追いかけ、志帆が恭平の背後へとやって来た。
「ねぇ、お嬢さん。私が依頼する仕事を引き受けてくれないかしら? あなたさえ了承してくれれば、恭平はいくらでも許可するはずなの」
 綺麗な顔を磨き上げるようにして、志帆は笑っている。だが雛子には、それが笑顔であるとは思えなかった。心の中では、何一つおもしろいと思ってないに違いない。そんな顔に見えたのだ。
 そんな笑顔は、逆に冷たい表情として思えてしまう。この世の全てを敵に回して、何かと戦おうとしている。死を恐れない兵士のような顔だ。
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