やくたたずの恋
「それにね、この仕事をあなたが引き受けてくれれば、恭平も喜ぶはずなのにね。それなのに……我慢してるのよ、恭平ったら」
「志帆!」
「大丈夫よ。ぜーんぜん大変な仕事じゃないの。私の夫と、定期的にお話をしてくれるだけでいいのよ」
 夫? 雛子は志帆の左手に目を遣った。その薬指には確かに、シルバーのリングが填められている。
 この人……結婚……してるの?
 では、あの恭平の思いは何なのだろうか? あの手の甲へのキスに込められていたであろう、この女性に対する愛しい気持ちは。
 もしかして、片思い? いやいや、こんなおっさんが片思いって……「肩重い」の間違いだろう。早めにやって来た四十肩だ。
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