やくたたずの恋
「ね? どうかしら? 引き受けてくださらない?」
 志帆は視線を逸らすことなく、雛子へと語りかける。それは、魔女がリンゴを差し出し、食べろと誘うのと同じだ。
 純粋な白雪姫は、リンゴを手に取らずにはいられない。かつては純粋な乙女だった魔女は、リンゴの魅力を知っている。リンゴに毒があろうとなかろうと、姫がリンゴに惹かれるであろうことは、百も承知なのだ。
「やめろ!」
 窓から吹く風に押し出されるように、恭平は志帆の前に立ちはだかった。
「これ以上……こいつには何も言うな」
「どうしたの、恭平。このお嬢さんが、そんなに心配なの?」
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