やくたたずの恋
 唇の稜線を微かに上げ、志帆は笑った。恭平が抵抗しないことを分かっていての、嘲りを含んだ笑みだ。その意図がはっきりと分かった瞬間、雛子の中で、敵対心がむくりと顔を擡げた。
 負けたくない。この女性の挑戦的な態度には、愛情など欠片もない。ただ恭平を貶めたいだけだ。そう思えば、こんな態度を取る人間に屈するのは嫌だった。恭平をハメるための落とし穴を掘るつもりなら、必死でその穴を埋めればいいだけだ。
 どうせ私は「役立たず」なんだから、一度は人の役に立たないと!
 自分を奮い立たせ、雛子は恭平の背後から顔を覗かせた。
「あの! 私、そのお仕事、やらせていただきます!」
 ピヨピヨ。ヒヨコの鳴き声が、空襲警報レベルのアラームに聞こえてしまう。
「バ、バカ! お前、何言ってんだよ!」
 焦って振り返る恭平に、雛子は「バカは恭平さんですよ!」と反論する。
「どんな客でも文句は言うな、って最初に言ったのは、恭平さんの方ですからね!」
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