やくたたずの恋
 邪魔なバリケードと化した恭平を押し除け、雛子は志帆の前へと出る。そしてちらりと、彼女の胸を見た。蝶のモチーフのペンダントの下にある、胸の膨らみ。薄手のワンピースに包まれたそれは、なだらかなものでしかなかった。
 ……なんだ。この人だって貧乳じゃない。私といい勝負ってとこね!
 ならば、と雛子は競い合わせるように胸を張り上げ、すぐさま頭を下げた。
「横田雛子と申します。ここで働き始めてから、あまり日は経ってませんが、ちゃんとお仕事をさせていただきますので、よろしくお願いします!」
 どんなに引き締めても、幼さの残る雛子の顔を見つめ、志帆は満足げに頷いた。
「健気なお嬢さんねぇ。まるで昔の私みたい。ねぇ恭平、あなたもそう思わない?」
「……思わねーよ」
 恭平は投げやりに答え、舌打ちを一つした。
< 243 / 464 >

この作品をシェア

pagetop