やくたたずの恋
 この日、志帆から依頼された仕事をすることになった雛子は、今回の仕事場である志帆の家まで、恭平の運転する車で送ってもらっていた。
 カーラジオからは、若い女が歌うJ‐POPが聞こえてきている。「あなたをもっと知りたい」「あなたのことを教えて」と連呼するそれは、今の雛子の気持ちを表していた。
 恭平と志帆。その二人の関係が一体どんなものなのか、雛子は知りたかったのだ。
 志帆と初めて会ったあの日以来、恭平に訊きたくても訊けない。悦子にそれとなく尋ねてみても、「あなたがCカップになったら教えてあげるわ」とはぐらかされる始末。手がかりはない。見事に迷宮入りだ。
 寝ぼけながらも、志帆の名を愛おしげに呼んでいた恭平。『Office Camellia』の合い鍵まで持っている志帆。しかも結婚している。そんな彼女に、恭平はことのほか冷たかった。
 ……ダメだ。全然分からない。
 断片的な二人の要素を足しても引いても、答えは出ない。どんな数式を使っても、二人の関係が全く見えてこない。
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