やくたたずの恋
 カーラジオは別の歌を流し始め、今度は男のボーカルが「チャンス! 今しかないんだ!」と歌っている。
 確かに、今がチャンスだ。二人っきりなのだから、訊くなら今しかないだろう。雛子はシートベルトをぎゅっと握り締め、「あの……」と恭平に声を掛けた。
「恭平さんと志帆さんは、どういうご関係なんですか?」
 無言。やっぱりね。そうだと思った。
 予想通りと言うべきか、想定内と言うべきか、恭平は答えない。両脇にプラタナスが規則正しく並んだ道に沿って、車を進めているだけだ。
 クソおやじめ……。その言葉が喉までせり上がるが、雛子は我慢する。ここでキレてはいけない。
 相手の真意を知りたいならば、感情的にならず、正面から向かっていくこと。各省の大臣を歴任するほどの代議士だった父方の祖父が、よくそう言っていた。それを思い出し、雛子は恭平の横顔を見据える。
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