やくたたずの恋
 恭平の言う二人の関係は、真実なのかも知れない。だが雛子にとっては、それははぐらかしでしかないのだ。彼女が知りたいのは、二人がどんな風に出会って、どんな時間をどれだけ共に過ごしたか、ということなのだから。
 雛子は静かに核心に迫ろうと、言葉で忍び足を踏む。
「それと……志帆さんがおっしゃってましたけど、あの『Office Camellia』って、志帆さんのために作ったっていうのは、本当ですか?」
「……ああ。正確に言うと、志帆みたいな女をこれ以上作らないため、だけどな」
「志帆さんみたい、って、どんな女性のことですか?」
「貧乳で、合い鍵で人の事務所に勝手に入ってきて、俺がお前にキスしているところを見るような女」
 ……はいはい。またはぐらかしたよ。
 雛子は巨大なバルーンを膨らますかのように、ため息を吐き出した。その成分は、大部分が呆れと腹立ちでできている。
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