やくたたずの恋
「君が……志帆が連れてきた方なのかな?」
「は、はい! はじめまして。横田雛子と申します」
 オーディションを受けているかのように、雛子は緊張気味に挨拶をする。その姿を見て、老人は眼鏡の奥の目を細めた。
「星野です。君のことは、志帆から聞いているよ。こちらに座りなさい」
 案内されたのは、ベッドの横にある、肘掛けのついた椅子だった。そこに腰掛けると、再び部屋のドアが開く。家政婦が入ってきて、雛子の座る椅子の近くにあるカフェテーブルにコーヒーを置く。
 家政婦が出て行くと、星野はテーブルへと近づいた。車椅子を動かしていた右手で、コーヒーカップを取る。左手は、全く動かそうとしない。
 もしかして。思い当たるところのある雛子は、思い切って尋ねてみた。
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