やくたたずの恋
「あの、今回のお仕事は、ただご主人とお話しするだけでいいんですよね?」
「……あら。あなた、恭平からは何も聞いてないの?」
聞いているのは、志帆の夫である星野と話をする、という仕事内容だけだ。それ以上の指示はない。しかも恭平は、念押しするように「ただ、相手と話をするだけでいい」とまで言っていたほどだ。
戸惑いを見せる雛子を、志帆は壁に寄りかかりながら見下ろす。そして「困ったわね」と言うかのように肩を竦めた。
「確かに私の依頼は、あなたに主人の話し相手になってもらうことよ。だけどそれは、話すこと自体が目的ではないの」
周りの空気を押し退けて、志帆の顔が雛子へと近づいてくる。その行為は、人に対するものとは思えなかった。あまりにも不躾で、鏡にでも向かっているような雰囲気だ。
鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰? そんな秘密の問いかけをするように、志帆はひっそりと囁いた。
「あなたに、うちの主人を誘惑してほしいのよ」
「……あら。あなた、恭平からは何も聞いてないの?」
聞いているのは、志帆の夫である星野と話をする、という仕事内容だけだ。それ以上の指示はない。しかも恭平は、念押しするように「ただ、相手と話をするだけでいい」とまで言っていたほどだ。
戸惑いを見せる雛子を、志帆は壁に寄りかかりながら見下ろす。そして「困ったわね」と言うかのように肩を竦めた。
「確かに私の依頼は、あなたに主人の話し相手になってもらうことよ。だけどそれは、話すこと自体が目的ではないの」
周りの空気を押し退けて、志帆の顔が雛子へと近づいてくる。その行為は、人に対するものとは思えなかった。あまりにも不躾で、鏡にでも向かっているような雰囲気だ。
鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰? そんな秘密の問いかけをするように、志帆はひっそりと囁いた。
「あなたに、うちの主人を誘惑してほしいのよ」