やくたたずの恋
それでも、雛子はその車の助手席に座りたくはない。できればその車のブレーキを踏みたい。その気持ちで、もう一度「無理です!」と叫んだ。
だが志帆は、気にする様子などない。「大丈夫よ」と、柔らかい声を湯気のように上げる。
「あなたになら、主人は夢中になるはずよ。だってあなたは、昔の私にそっくりだもの。あの人、若い頃の私を好きだったのよ」
果たして、本当に似ているのだろうか? 星野も同じことを言ってはいたが、雛子は素直に信じることはできない。
似ている。それを何度も唱えることで、次第にこの美しく寂しげな人に似てしまう。そんな呪文なのかも知れない。それから逃れるには、耳を塞いでしまうに限る。悪い魔女に心を奪われてしまう前に、差し出されたリンゴをかなぐり捨て、逃げなくては。
「それでも……私にはできません。無理です。それにご主人は、志帆さんを愛していらっしゃると思いますし」
星野は、雛子に言っていたではないか。「君は、志帆の代わりにはなれない」と。彼のあの純粋な気持ちを、この人は知らないのだろうか。
だが志帆は、気にする様子などない。「大丈夫よ」と、柔らかい声を湯気のように上げる。
「あなたになら、主人は夢中になるはずよ。だってあなたは、昔の私にそっくりだもの。あの人、若い頃の私を好きだったのよ」
果たして、本当に似ているのだろうか? 星野も同じことを言ってはいたが、雛子は素直に信じることはできない。
似ている。それを何度も唱えることで、次第にこの美しく寂しげな人に似てしまう。そんな呪文なのかも知れない。それから逃れるには、耳を塞いでしまうに限る。悪い魔女に心を奪われてしまう前に、差し出されたリンゴをかなぐり捨て、逃げなくては。
「それでも……私にはできません。無理です。それにご主人は、志帆さんを愛していらっしゃると思いますし」
星野は、雛子に言っていたではないか。「君は、志帆の代わりにはなれない」と。彼のあの純粋な気持ちを、この人は知らないのだろうか。