やくたたずの恋
* * *
ドアチャイムが、弱々しく鳴り響く。一人で『Office Camellia』の事務室にいた恭平は、玄関へと向かい、ドアを開けた。
「おう。仕事はどうだった?」
ドアの前に立っていた雛子は小さく会釈をして、口を開くことなく、玄関へと入ってきた。靴を脱ぎ、ずんずんと廊下を進んでいく。
「お、おい! どうしたんだよ!」
いつもとは明らかに違う雛子の様子に焦りながら、恭平は追いかける。
雛子は一直線に事務室に入ると、ソファに体を落とした。俯きがちにした顔には、明るさはない。彼女が咲かせた花々が、猛吹雪に当てられて凍え死んでいる。
一体どうしたのか。何となく予想はつくものの、恭平はあえて口に出すことなく、雛子の横に座った。
「……何があったんだ? 志帆に何か言われたのか?」
雛子はすぐには答えず、しばらく無言のままでいた。小鳥の囀りに似た瞬きを何度か繰り返した後、やっとのことで口を開いた。