やくたたずの恋
 いきなりキスをされたことに、驚きはあった。だけど、嫌ではない。好きでもない相手でありながら、待ちこがれていたようなキスだった。
 恭平の唇は、優しい毛布のようだった。ふわふわした肌触りで、雛子の心の中を包み、あたためていく。恭平が雛子の唇を挟み、吸い上げる度に、その思いは強くなった。
 毛布はいよいよ力強く、雛子を離すまいと毛並みを立てていく。口の中を掻き混ぜられれば、雛子もそれに誘われてしまう。
 お互いの心を探るように口づけを続け、不意に唇が離れる。濡れた口の周りに冷たさを感じながら、雛子は恭平を見ていた。自分を「役立たず」ではないと言ってくれる、心優しい男がそこにはいた。
「何で……キスしたんですか?」
「……さぁな」
 もしかして……私が志帆さんに似ているからですか?
 女特有の予感と不安。だけどそれを、口には出せない。
 恭平の手は、雛子の頭を静かに押し倒した。自分の膝の上に頭を付けさせて、彼女の体を横たわらせていく。
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