やくたたずの恋
「少し休め。寝れば、大体のことは治る」
「……『貧乳は治らないけどな』とか言うつもりですよね?」
「よく分かったな」
 ククク、と恭平は口を閉じたままで笑い、雛子の背を撫でた。
「分かってるなら、いつかは治るさ」
 恭平の膝上の筋肉を通して、その声が雛子の耳に届く。
 もし、雛子が恭平を好きだったならば、これはかなりのドキドキもののシチュエーションだ。だけど残念ながら、心は弾まない。やはり「おっさん」を簡単には好きにはなれない、ということなのだろう。
 だけどその代わりに、心がふんわりと落ち着いていく。「好き」とか「恋」といったものでないとすれば、これは一体、何と名付ければいい気持ちなのだろう?
 目を瞑れば、雛子の鼻先に煙草の匂いが漂う。恭平が新しい煙草に火を点け、煙を吐き出しているのだろう。さっきまで彼と合わせていた口の中にも、同じ煙草の匂いが残っていた。
 嫌いじゃない。この煙草の匂いも、おっさんのことも。
 そう思いながら、雛子は眠りの中に落ちていった。
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