やくたたずの恋
「こんにちは」
「やぁ、いらっしゃい」
 星野は落としていた視線を上げ、雛子へと笑顔を見せた。彼の車椅子の周りには、大量の段ボールの箱が置かれている。
「もしかして、何かの作業をなさっていたんですか? お邪魔してしまい、申し訳ありません」
「いや、大丈夫だよ。私はレコードの収集が趣味でね、その整理をしていただけなんだ」
「そうでしたか。拝見してもいいですか?」
「構わないよ。ほら、こっちに来てごらん」
 星野は手招きをして、車椅子を動かす。雛子と共に部屋の隅に置かれた段ボールを覗き込むと、そこから一枚のレコードを取り出した。
「……ああ、あった。これだ。これを探していたんだよ」
 何人かのバレリーナが、白いチュチュを着て舞っている。そんなジャケットの上の方には、紫色の文字で『The Nutcracker』と書かれていた。
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