やくたたずの恋
 確かにその通りだった。星野とはレコードの話をした後、レコードの整理を手伝っておしまいだったし、仕事の後も志帆に変なことを言われることもなかった。
「お前がここに帰って来てから、何もしゃべらないでじっとしてるから、また志帆に余計なことを言われたんじゃないか、って思ったんだよ」
 そんなことを気にしてくれていたなんて。おっさんらしくない。
 いや、おっさんらしいとも言えるのだろうか。これだけの気遣いをしてくれる人ならば、どんなワルツでも、パートナーに合わせて軽やかに踊れることだろう。
 ワン、ツー、スリー。ワルツの三拍子に合わせるようにして、恭平は歩みを進め、デスクに寄りかかる。そして雛子へと、弛みのない表情を見せた。
「悪いな。お前に変な仕事させて」
「い、いえ! そんな……」
 これは……ドキドキな場面じゃないの? ここでときめけば、一気におっさんを好きになれるんじゃないの?
 そう思うのだが、雛子の心は無反応だ。「何か用?」という感じで、ポテトチップスをつまみながら、雛子の心は気怠く寝転がっている。
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