やくたたずの恋
 父は、眼鏡の奥の目を雛子へと向ける。そして、「挨拶しろ」と言わんばかりに、小さく顎をしゃくり上げた。
 言われなくても、挨拶ぐらい、ちゃんとしますってば!
 文句を言いたくなりながらも、雛子はフォーマルな笑顔を作り、一礼した。
「お父様、ただいま戻りました。おじ様、いらっしゃいませ」
「おお、雛子ちゃん!」
 影山は、トトロのような丸い体を動かし、雛子を見た。
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