やくたたずの恋
「本当に、私は志帆さんに似てるんですか? 志帆さんにも星野さんにも、同じこと言われたんですけど」
「似ているよ。顔形ってことじゃなく、雛子ちゃんが持っている明るい雰囲気とか、そういうのが、大学時代の志帆ちゃんにそっくりなんだ」
 雛子は、今日も春の気配を纏っていた。レンゲの花で溢れる草原を撫でる風に似た、あたたかさと甘ったるさ。雛子の持つそれが、敦也にとっては眩しいものだった。
 だが雛子は今、春の妖精としての表情を潜め、俯いている。
「それで……私が志帆さんに似てると、何が心配なんですか?」
「恭平が君を、志帆ちゃんの身代わりにするんじゃないか、って思ってね」
「み、身代わり?」
 志帆さんの代わりとして、私を……?
 もし、恭平が自分と結婚してくれることがあるとすれば、そこには雛子に対する愛情はない、ということなのだろうか? ただ志帆を想うために、よく似た自分を、志帆に見立てて結婚するつもりなのだろうか?
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