やくたたずの恋
「つまりそれって……恭平さんが、まだ志帆さんのことを好きだってことですよね?」
 言いたくもない推定事実。それを口にしてしまったことで、雛子の持つ春の気配は、秋の枯れ葉の季節へと一気に移ろっていく。
 そんな彼女に、再び花咲く季節を迎えさせられるのは、自分だけ。敦也には、心に秘めた自信があった。秋を迎えた後に寒い冬を経験しなければ、花は開かない。それを知って、敦也はあえて雛子へと北風を吹き込んだ。
「僕には恭平の気持ちは分からないけれど……二人はとにかく、仲が良かったからね。羨ましいほどに、素敵なカップルだった」
 敦也の放つミントフレーバーが、冷たいものに感じられる。ぶる、と体を震わせる雛子の脳裏に、この前のキスが蘇った。志帆を羨ましい、と泣いた雛子に、恭平がしてくれたキスだ。
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