やくたたずの恋
 あの時、恭平が自分を「役立たずではない」と言ってくれたことが、どれだけ嬉しかったか。そしてあのキスは、雛子を励ますものだったのに。
 だが、あれはきっと、そういう意味を持ってはいなかったのだ。志帆の身代わりとしての自分に、恭平はキスしていただけなのだろう。
 予想していたことが、はっきりと確信に変わる。それと同時に、恭平の姿までもが変化していった。煙草の国のヤニ王子が、輝く太陽の国の、光の王子へと変わったのだ。
 王子は愛する姫君の前でしか、本当の姿を現さない。本物の王子様になった恭平は、舞踏会で志帆とワルツを踊っている。雛子には決して見せることのない、輝かしい表情をして。
 ……そんなの……やだ。
 雛子は急に、恭平の煙草の匂いが恋しくなる。これでは、光の王子をヤニ王子に変えようとする、悪い魔女と同じだ。
 雛子にとっては、恭平は王子様ではない。「おっさん」なのだ。「おっさん」が雛子を励まし、力づけてくれたのではないか。
 だから、王子様なんて要らない。「貧乳」とか「BカップのB子」などと言い放つ、巨乳好きの「おっさん」がいてくれれば、それで十分だった。
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