やくたたずの恋
* * *
食事を終え、店の外に出た雛子は、敦也へと頭を下げる。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「今日は急な予約を入れてしまって、申し訳なかったね」
夜の外気の中でも、敦也の爽やかさと、誠実さは消えない。暗い海を照らすただ一つの灯台のように、真面目さの灯火を絶やすまいとしている。
そんな敦也の頑張りに答えるように、雛子は「大丈夫です」と微笑む。すると敦也は、急に表情を引き締めた。
「雛子ちゃん。これは、僕の本心なんだけど……聞いてくれるかな?」
敦也の、真面目さを二乗した様子。それは雛子に、緊張の波として押し寄せた。バッグの持ち手を両手で握り締め、不安げな瞳を向ける。すると敦也は、一歩雛子へと近づいてきた。
「僕は雛子ちゃんと、結婚を前提にお付き合いをしたいと思っているんだ」