やくたたずの恋
「コネとか、親の言いなりとか……そういう結婚は、するもんじゃねぇだろ?」
 静かな車内に響く、恭平の声。横を見れば、煙草の匂いの中で影になる恭平の横顔があった。彼もまた、雛子と同様に、遠い過去を見るように、赤いランプを目で追いかけている。
「……だから、恭平さんは迎えに来てくれたんですか?」
 恭平にこちらを向いてほしくて、雛子は声を掛ける。
「私の……ために。私が……敦也さんの誘いに乗らないように、って……ここまで来てくれたんですか?」
「……まぁな」
 過去から戻った恭平は、雛子を見た。暗い車内で光る、彼女の色白の顔。その頬には、幾筋もの涙が流れていた。
「ど、どうした!? 敦也に何かされたのか?」
 焦る恭平に、雛子は何も答えず、ただハラハラと涙をこぼし続けている。
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