やくたたずの恋
「私、恭平さんのことが好きです!」
 吐き出された、本当の気持ち。それは、恭平が授けてくれたものだ。
 役立たずを卒業し、しっかりと仕事をして、好きな人を見つけて結婚する。そんな当たり前のことができなかった雛子に、恭平がチャンスとパワーをくれたのだ。
「恭平さんとなら、結婚してもいいって、心から思ってます! だから、お願いです! 私と結婚してください!」
 恭平は無表情なままで、煙草の煙を吐き出している。薄雲のように広がる煙の中に、彼の王子としての姿は消えつつあった。そして代わりに、「おっさん」としての彼が現れる。
 お願い、王子様のままでいて。そして、私の言葉に応えて。
 雛子はそう願いながら、恭平を見つめていた。
「……悪いな、無理なんだ。お前とは結婚できない」
 やっと聞こえた恭平の声。それは車の中で、縮こまって聞こえた。
「それって……私が貧乳だからですか?」
 バカバカしくも、真剣な問い。それを雛子が慎重に口にすると、それ以上の注意深さで、恭平が首を振る。
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