やくたたずの恋
フロントガラスの向こう側にある、街頭の下にいる志帆。彼女はこちらを見て、微笑んでいる。
駆け落ちをしよう、と誓い合い、ずっと待ち合わせ場所に居続けた志帆。そんな彼女が、恭平がやって来たことを喜んでいるのだ。
だが、それは幻だ。恭平はあの日、あの場所には行かなかったのだから。
「駆け落ちの日、それが親父にバレてさ、俺が出て行こうとしたら、あのハゲデブチビが食ってかかってきたんだ。『お前たちの惚れた腫れたなんて、借金に比べれば、どうでもいいことだ!』なんて言ってさ。俺の母親までもが、『志帆ちゃんが犠牲になることで、あのご一家は助かるのよ!』って泣いて止めるし、しまいには志帆の両親までやって来て、俺に土下座するんだよ。『頼むから、あの子のことは諦めてほしい』って。……そして結局、俺は志帆と待ち合わせた場所に行くことはできなかった」
恭平の目に見えている志帆の姿が、寂しげなものに変わる。この世の全てに絶望し、生きる気力を失った顔を、地面へと向けている。
恭平が来ないこと、そして自分の人生を他者の意志で変えられてしまったこと。それは彼女にとっての地獄だ。その地獄に彼女を貶めたのは、一体誰なのか。
駆け落ちをしよう、と誓い合い、ずっと待ち合わせ場所に居続けた志帆。そんな彼女が、恭平がやって来たことを喜んでいるのだ。
だが、それは幻だ。恭平はあの日、あの場所には行かなかったのだから。
「駆け落ちの日、それが親父にバレてさ、俺が出て行こうとしたら、あのハゲデブチビが食ってかかってきたんだ。『お前たちの惚れた腫れたなんて、借金に比べれば、どうでもいいことだ!』なんて言ってさ。俺の母親までもが、『志帆ちゃんが犠牲になることで、あのご一家は助かるのよ!』って泣いて止めるし、しまいには志帆の両親までやって来て、俺に土下座するんだよ。『頼むから、あの子のことは諦めてほしい』って。……そして結局、俺は志帆と待ち合わせた場所に行くことはできなかった」
恭平の目に見えている志帆の姿が、寂しげなものに変わる。この世の全てに絶望し、生きる気力を失った顔を、地面へと向けている。
恭平が来ないこと、そして自分の人生を他者の意志で変えられてしまったこと。それは彼女にとっての地獄だ。その地獄に彼女を貶めたのは、一体誰なのか。