やくたたずの恋
「それからはあっという間だったな。3日後には志帆と星野さんの入籍が済んで、1か月も経たないうちに結婚式を挙げてたな。用意周到だよな、親父も、星野さんも」
 恭平は、ふふ、と笑う。その悲しい音は、煙草の匂いと一緒になって、乾いた空気の中へと染み込んだ。そして、恭平の懺悔の場所と化した車内の、奇妙なBGMになっていった。
「それで、俺も気づいたんだよ。親父が人に金を貸して、身ぐるみ剥して返済させた金で、俺は育って、生活してきたんだなって。結構いい暮らしはしてたけど、それが全部、志帆のような犠牲者たちの上に成り立っているって思ったら、影山の家にいることはできなくなった」
「だから……影山のおじさまの下から飛び出したんですか?」
「ああ。家を出て、大学も辞めて、バイトをして暮らしていた頃に、悦子と知り合って、『Office Camellia』を立ち上げたんだ。悦子はああ見えて、大企業で経営戦略の担当をしてた人間だからな。二人で協力して、悦子のような被害者をこれ以上出さないために、あの会社を作ったんだ」
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