やくたたずの恋
好きになる努力――それは以前、雛子が言った言葉だった。恭平を好きになれるように努力するので、結婚してほしい。彼女は小さなくちばしで、ピヨピヨと宣言していた。
努力や根性。そんな体育会系のノリで人を愛せるとは、恭平は思わない。だが、どんな相手であろうとも、真剣にその人を思いやれば、あたたかな気持ちで繋がることは可能だろう。
志帆は、それをしなかった。しようとする意志など、欠片もない。
もしかして志帆は、自分の置かれた現実から、ただ逃げているだけではないのか?
恭平の頭に、その問いがのしかかる。だが、彼女にそうさせているのは、自分の存在なのだ。「結ばれなかった恋人の片割れ」として、彼女の前に存在し続けているのは、他でもない恭平だ。
苦しい。酸素の濃度が減ったかのように、急に息苦しさを感じる。このまま息もできずに、記憶をなくし、空っぽな自分になれたら、どんなに楽だろうか。
一人で宇宙の彼方へと放り出され、遠い彼方で死に至る。そんな夢を見る恭平へと志帆は近づき、彼のベストの襟刳りを指でなぞった。
「……私は、冷たい人間なのよ。どんなに贅沢な暮らしをさせてもらっても、星野を愛することなんてできないもの」
くるくる。彼女の指が、ベストの布地の上で螺旋を描く。かつて二人で踊った、ワルツのステップと同じリズムで。
努力や根性。そんな体育会系のノリで人を愛せるとは、恭平は思わない。だが、どんな相手であろうとも、真剣にその人を思いやれば、あたたかな気持ちで繋がることは可能だろう。
志帆は、それをしなかった。しようとする意志など、欠片もない。
もしかして志帆は、自分の置かれた現実から、ただ逃げているだけではないのか?
恭平の頭に、その問いがのしかかる。だが、彼女にそうさせているのは、自分の存在なのだ。「結ばれなかった恋人の片割れ」として、彼女の前に存在し続けているのは、他でもない恭平だ。
苦しい。酸素の濃度が減ったかのように、急に息苦しさを感じる。このまま息もできずに、記憶をなくし、空っぽな自分になれたら、どんなに楽だろうか。
一人で宇宙の彼方へと放り出され、遠い彼方で死に至る。そんな夢を見る恭平へと志帆は近づき、彼のベストの襟刳りを指でなぞった。
「……私は、冷たい人間なのよ。どんなに贅沢な暮らしをさせてもらっても、星野を愛することなんてできないもの」
くるくる。彼女の指が、ベストの布地の上で螺旋を描く。かつて二人で踊った、ワルツのステップと同じリズムで。