やくたたずの恋
「私は……ただあなただけを待ってるの。あなたがいつか、私を助け出してくれるって。ずっと私を好きでいてくれるって」
見上げれば、恭平の顔がある。彼の瞳には、自分が映っている。それだけが、志帆の心の支えだった。彼が見てくれている間は、あの頃の自分でいられる。
彼を失えば、私も消える。それだけは嫌。だから、絶対に誰にも渡さない。
志帆は背伸びをして、顔を近づける。そしてゆっくりと、恭平の唇へと迫っていった。
「……やめろ」
唇が触れ合う直前で、恭平が咄嗟に志帆の体を引き剥がした。
「どうしたの?」
戸惑う志帆の視線を避けながら、恭平は自分の唇をそっと撫でた。そこには雛子とのキスの感覚が残っている。親が子供がするような、ただ皮膚同士を接触させるだけのキスだ。
なのにあれが、恭平の心を縛りつけている。彼女の言葉と一緒になって。
――逃げないでくださいね――
あの言葉は、どういう意味だったのか。キスをするために、恭平を押さえつけるものだったのか。それとも、この現実を受け入れろ、という意志を、恭平に伝えるものだったのか。
見上げれば、恭平の顔がある。彼の瞳には、自分が映っている。それだけが、志帆の心の支えだった。彼が見てくれている間は、あの頃の自分でいられる。
彼を失えば、私も消える。それだけは嫌。だから、絶対に誰にも渡さない。
志帆は背伸びをして、顔を近づける。そしてゆっくりと、恭平の唇へと迫っていった。
「……やめろ」
唇が触れ合う直前で、恭平が咄嗟に志帆の体を引き剥がした。
「どうしたの?」
戸惑う志帆の視線を避けながら、恭平は自分の唇をそっと撫でた。そこには雛子とのキスの感覚が残っている。親が子供がするような、ただ皮膚同士を接触させるだけのキスだ。
なのにあれが、恭平の心を縛りつけている。彼女の言葉と一緒になって。
――逃げないでくださいね――
あの言葉は、どういう意味だったのか。キスをするために、恭平を押さえつけるものだったのか。それとも、この現実を受け入れろ、という意志を、恭平に伝えるものだったのか。