やくたたずの恋
 だって、持ち物がお揃いなら、いつだって私のことを思い出してくれそうじゃない?
 良く言えば「可愛らしい」、悪く言えば「少女趣味ど真ん中」な考えの下、差し出されたマグカップ。「ありがとう。使わせてもらうよ」とか、「お前とお揃いなんて嬉しいな」とか、「でもお高いんでしょう?」とか。雛子は恭平のそんな言葉を待っていた。
 だが、恭平は全く反応を見せない。それどころか、極寒の地にいるかのように、表情を動かせなくなっている。
 マイナス30℃の世界。その中で恭平は瞬きも忘れ、直線的に立ち上がる。そして雛子が用意したマグカップを持ち、ソファにいる悦子へと歩み寄った。
「おい、悦子。これ、お前のペン立てにでもしろ。何ならお前んちの犬のおもちゃにしてもいいぞ」
「きゃあああ! 何するんですか!」
 雛子は恭平の手からマグカップを取り戻し、抱きかかえる。捨てられそうになった、おもちゃを庇う。そんな子供じみた雛子の様子を見て、恭平は大きくため息をついた。
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