やくたたずの恋
「あのなぁ……。いい歳こいたおっさんがお嬢ちゃんとペアのマグカップを使うなんて、できると思ってんのか? 新婚カップルじゃあるまいし!」
「じゃあ、私とさっさと結婚してくださいよ! そしたら歴とした新婚さんですよ!」
「はぁ? ふざけんな! 二言目になれば、結婚って言いやがって! そんなに結婚したかったら、嫁不足の農家にでも嫁げ!」
「嫌です! 結婚するなら、恭平さんじゃなきゃ嫌なんです! 私は恭平さんを好きなんですから!」
 好き。その言葉のあまりの他意のなさに、恭平は言い返すことができない。雛子の直球勝負に見逃し三振を喫したバッターとして、下を見て黙り込む。その顔は、雛子の手にあるマグカップのごとく、赤く染まっていた。
「……どうしたんですか、恭平さん。顔、赤いですよ」
「い、いや……何でもない」
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