やくたたずの恋
 恭平は確かに死んでいた。志帆を失ったあの日から、それまでの自分を否定し続けたのだから、死人と何ら変わりはない。
 死者に待つのは、死後の世界のみだ。そこで同じ死人として、志帆と生きるしか道はないと思っていたのに。
「ねぇ、影山ちゃん。幸せになることは、罪ではないわよ」
 悦子の静かな声に、恭平は首を向ける。悦子は再びパソコンの画面に視線を戻し、キーボードの上で指を動かしていた。
「幸せは罪。もしあなたがそう思っているなら、あなたにそう思わせている人間の方を疑った方がいいわ」
 それは恭平にも分かっていることだった。志帆も自分も間違えているのだ、と。
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