やくたたずの恋
 うーん……。この人を……幸せにすることって、できるのかなぁ?
 恭平に「恭平も志帆も幸せにする」と宣言したものの、雛子の中では「無理無理無理無理無理!」とリフレインが響いている。その無理と無理の間をすり抜けて、廊下にメロディが流れ出した。
 これは……『花のワルツ』?
 どうやら、星野の部屋から聞こえてきているらしい。この前、星野が抱えていたレコード。そのジャケットに描かれていたバレリーナたちが、一斉に踊り出す。
 星野はこれを、志帆との思い出の曲だと言っていた。だが、雛子の目の前にいる志帆は、全く無反応だ。それどころか、周りを飛ぶ蚊に対するがごとく、煩わしそうな雰囲気を出している。
 星野の部屋のドアをノックして開ければ、音は膨れて溢れ出す。志帆はそれに対しても、一切反応を示さなかった。
「こんにちは!」
「おお、いらっしゃい」
 部屋に入った雛子を、星野は笑顔で出迎える。窓際に置かれたレコードプレイヤーの前で佇む星野に、雛子は静かに近づいていった。
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