やくたたずの恋
星野と同じ経験が、雛子にある訳ではない。だが、人を好きになることの理屈のなさは、十分理解できる。恋や愛といったものは、理性や社会の仕組みを越えた先にあるのだ。
そうでなければ、雛子は恭平を好きになったりはしなかっただろう。おっさんでスケベで巨乳好きで、しかも自分以外の女を愛している男。そんなヤツは、普通の感覚では「嫌い」の類に入るものだ。
だけど、好きになってしまった。それは、どうしようもないことなのだ。
「どうしても志帆を、自分のものにしたかった。だからこそ無理矢理に、彼女を手に入れたんだ。お陰で志帆は、今も私の妻だ。だけど彼女からは、私の好きだった部分が消えしまった。結婚してからは明るい笑顔など見せず、死んでいる人間のように過ごすことが多くなった」
窓から入った光が、星野を白く照らし、透明に近づけていく。彼の全ての感情を蒸発させ、空っぽにしてしまう。だが、それでも残るものはあるに違いない。それは、志帆への愛情だろう。
星野は、志帆を愛している。彼が志帆を手に入れたのは、確かに卑怯で不幸な方法ではあった。だが、星野は志帆を心から愛しているのだ。
確信した雛子は唇を引き締め、レコードプレーヤーを見つめた。穏やかな陽の光の中で回るレコードは、太陽に照らされた土星の輪にも見える。周回しながら星屑を削り、溝に埋め込まれた音を吐き出す。ただそれだけだ。レコードが愛を語るはずもない。自らの愛は、自らの口で語り、伝えなくては。
そうでなければ、雛子は恭平を好きになったりはしなかっただろう。おっさんでスケベで巨乳好きで、しかも自分以外の女を愛している男。そんなヤツは、普通の感覚では「嫌い」の類に入るものだ。
だけど、好きになってしまった。それは、どうしようもないことなのだ。
「どうしても志帆を、自分のものにしたかった。だからこそ無理矢理に、彼女を手に入れたんだ。お陰で志帆は、今も私の妻だ。だけど彼女からは、私の好きだった部分が消えしまった。結婚してからは明るい笑顔など見せず、死んでいる人間のように過ごすことが多くなった」
窓から入った光が、星野を白く照らし、透明に近づけていく。彼の全ての感情を蒸発させ、空っぽにしてしまう。だが、それでも残るものはあるに違いない。それは、志帆への愛情だろう。
星野は、志帆を愛している。彼が志帆を手に入れたのは、確かに卑怯で不幸な方法ではあった。だが、星野は志帆を心から愛しているのだ。
確信した雛子は唇を引き締め、レコードプレーヤーを見つめた。穏やかな陽の光の中で回るレコードは、太陽に照らされた土星の輪にも見える。周回しながら星屑を削り、溝に埋め込まれた音を吐き出す。ただそれだけだ。レコードが愛を語るはずもない。自らの愛は、自らの口で語り、伝えなくては。