やくたたずの恋
「私が星野さんのところへやって来ては、ただお話だけして帰るのも何ですし、ぜひダンスの練習をしましょうよ!」
「い、いや……。構わないけれども……一体どうして……」
「志帆さんと、踊るためですよ! 車椅子でのダンスをマスターして、今度こそ星野さんは志帆さんと踊るんです! 12年前に戻って、志帆さんへの本当の気持ちを伝えるために、踊らなくちゃ!」
 そうだ! これが志帆さんを……そして恭平さんを幸せにする第一歩なんだ!
 グッドアイデア! ユリーカ! 世紀の大発見をしたかのように、雛子は自信満々の表情を見せた。
 最初は戸惑いを見せていた星野も、次第に雛子の色に染まっていく。かつての志帆に似た、輝きを持つ雛子が与えてくれたチャンス。ならば、それに乗るのも悪くはない。
「……分かった。君の提案に乗ってみよう。では早速、12年前へと戻ってみようかな」
 星野は車椅子を動かし、レコードプレーヤーへと近づく。アダージョを奏でていたトーンアームをつまみ上げると、再び『花のワルツ』を響かせるために、針をレコードの端へと落とした。
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