やくたたずの恋
 結婚してからというもの、志帆は星野に心を開くことがなかったのだ。そんな彼女が、いきなりダンスの相手になってくれるだろうか? その疑いは、雛子も抱えてはいた。しかし、だからと言って、ここでくじける訳にはいかないのだ。
「大丈夫です! 志帆さんは、絶対に踊ってくれますよ!」
 雛子は星野を応援する、唯一のチアガールだ。必死でポンポンを振り、一人で人文字を作ろうとするほどに、星野を励まし続けている。
 ひたすら恭平を思い続ける志帆。その凝り固まった心を解く術など、雛子にも分かりはしない。だが、純粋に志帆を思い続ける星野を、応援せずにはいられなかった。
 きっとこれは、同情に近いのだ。こちらを見てくれない人を好きになってしまった、「片思い同好会」の会員同士の連帯感だろう。
 そして、片思いの先輩としての星野を、雛子は尊敬していた。どんなに志帆に振り向いてもらえなくても、長年志帆を愛し続けた大先輩として。
「ここまで毎日努力しているんですから、星野さんの気持ちは、必ず志帆さんに伝わります!」
 9回のウラ、サヨナラのチャンス。チアガールとしての精一杯の応援を繰り広げ、雛子は微笑む。星野は照れくさそうに頭を掻き、「ありがとう」と呟いた。
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