やくたたずの恋
 だったら……やっぱり、ここでちゃんと言わなきゃダメだよね?
 雛子は覚悟を決めるように、バッグを持つ手に力をこめた。
「あの、志帆さん。お願いがあるんですが」
「何?」
「今、星野さんは、志帆さんと踊るために、ダンスの練習をなさっているんです」
「ダンス? 私と?」
 志帆は腕を組み、美しい顔を歪める。嫌悪と拒否と不信感を、捏ね合わせた粘土。そこに鈍器が突き刺さったように、ぐにゃりと。
 そんな顔しないで、志帆さん……。
 志帆の表情を元に戻したい。その一心で、雛子は「はい!」と元気良く頷いた。
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