やくたたずの恋
「愛した男と結ばれず、あの男と結婚させられた……その意味が分かる!? 愛する男が、いつかは自分を見なくなるんじゃないか、って怯え続けることなのよ! 恭平が、私以外の他の誰かを愛するんじゃないか、っていう恐ろしさに、私はずーっと耐えているの! 今までも、これからもずーっとよ!」
 志帆にとっての年月は、一年や一日という単位ではない。恭平への想いを、積み重ねた地層でしか計れないものだ。
 尽きぬ想いだけがしんしんと降り積もる、冷たく乾いた世界。そこで志帆が輝き続けたのは、恭平に見つけてもらうためでしかなかった。
 孤独な月である志帆。彼女が輝けば輝くほど、悲しみが地を抉り、深く潜り込む。その世界は、雛子が父親によって沈められていた、海の底の景色に似ていた。
「あなただって、いつか分かるわ。私と同じ苦しみがね!」
 海の泡として聞こえる声。それは人魚姫の悲しい叫びだ。王子を求めながらも得られなかった、哀れなおとぎ話の結末。
 雛子には、それが他人事とは思えなかった。好きでもなかった恭平と結婚しようとしていた自分。そして、恭平を好きになったものの、果たして彼と結婚できるかどうかも分からない自分。
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