やくたたずの恋
志帆と自分は、同じ物語を生きているのかも知れない――雛子がそう思った瞬間、目の前に浮かぶ白い月が、ニヤと笑う。志帆は零れた涙をそのままに、冴えた光を放ち、雛子を照らし出していた。
「それとも……私が教えてあげようかしら? 私と同じ苦しみを……あなたにも……」
ザザザ、と足下で音がする。満月の時のように、潮が満ちていた。それはそうだ。志帆は美しい満月なのだから。支配者である彼女が命令すれば、海に雛子を襲わせることだって容易い。
知らぬ間に、志帆は雛子の腕を掴んでいた。あなたは私、私はあなた。そんな呪文を唱えつつ、雛子を自分と同じ海に沈め込もうと、強く握り締める。
怖い。雛子は咄嗟に志帆を振り払い、頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 失礼します!」
急いで靴を履き、ドアを出る。それでも、後ろから海が押し寄せていた。嫉妬と憎しみの波が足下を掬い、飲み込もうとする。
……早く! 早く逃げないと!
雛子は必死で足を動かし、駅前のタクシー乗り場へと向かっていった。
「それとも……私が教えてあげようかしら? 私と同じ苦しみを……あなたにも……」
ザザザ、と足下で音がする。満月の時のように、潮が満ちていた。それはそうだ。志帆は美しい満月なのだから。支配者である彼女が命令すれば、海に雛子を襲わせることだって容易い。
知らぬ間に、志帆は雛子の腕を掴んでいた。あなたは私、私はあなた。そんな呪文を唱えつつ、雛子を自分と同じ海に沈め込もうと、強く握り締める。
怖い。雛子は咄嗟に志帆を振り払い、頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 失礼します!」
急いで靴を履き、ドアを出る。それでも、後ろから海が押し寄せていた。嫉妬と憎しみの波が足下を掬い、飲み込もうとする。
……早く! 早く逃げないと!
雛子は必死で足を動かし、駅前のタクシー乗り場へと向かっていった。