やくたたずの恋
「だけど、私のこの気持ちは、恭平さんにとっては迷惑なんだってことも、分かってます」
「それは違う」
「違わないです!」
 雛子は絶叫に近い声を上げ、恭平を睨む。彼を憎んでいる訳ではない。自分が身を置いている現実が、辛いだけだ。
「だって、恭平さんは志帆さんのことが好きなんでしょ? だから、昔の志帆さんに似てる私に、キスをしたりしたんだ!」
「違う」
「そんなことないもん! 絶対に恭平さんは、私を昔の志帆さんだと思い込んでるんだ!」
 ずっと抱えていた気持ちを口にしたせいで、体が乾いていく。蝉の抜け殻のように、カサカサと音を立てて。
 このままでは、自分も志帆のようになってしまうだろう。虚しさを波に乗せて、沖から岸へと往復させるだけの、悲しい女に。
 ならば、希望の光を何とか見つけ、殻の中に詰め込まなくては。それが幻の光だったとしても構わない。たとえ志帆の代わりとしてでも、この人の傍にいられればいい。
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